少し長いけど読んでみてください。日本の米軍基地の意味がよくわかります。私は「米軍は日本から出て行け」って思います。 >基地と生活(その3止) 基地再編と日本 優先される米の戦略
騒音問題や米兵による事件・事故がらみで取り上げられることが多い日本国内の米軍基地。基地周辺住民以外の関心は必ずしも高くない。しかし、現在進められている米軍再編は、米国の世界戦略に連動しており、自衛隊の果たす役割も変質しつつある。米軍の駐留・再編には、少なからぬ私たちの税金が充てられてもいる。日本は米軍に何を求めていくのか。次の衆院選では、そうした政策論争も求められている。【古本陽荘】
◇海外部隊削減で「玉突き」
Q そもそも米軍再編って何のために始まったの?
A 冷戦が終わって世界に展開する米軍の体制の見直しが必要だったからです。実際に検討が加速化したのは、01年の米同時多発テロから。米軍を変革・再編するという考え方は「トランスフォーメーション」という言葉で表現され、当時のラムズフェルド国防長官の指導で大規模な見直しにつながりました。
Q どんな背景があったの?
A 軍事革命(RMA)と言われた軍事技術の急速な発展が、背景にありました。無人機による偵察・爆撃、精密誘導弾によるピンポイント爆撃、空輸が容易な機動性の高い装輪装甲車「ストライカー」の陸軍への導入などで、戦争の様相が大きく変わりました。部隊はより軽くなり、速く移動することが可能になったのです。そのため米国は「なるべく米軍は本土に戻そう、その穴埋めは同盟国に頼もう」という方針になりました。
Q 在日米軍再編はその一環ということ?
A そうです。日本では米軍再編というより「米軍基地再編」=<1>=というイメージが強いのですが、もともとはいざという時に同盟国・日本にどこまでの仕事を任せることができるのか見極めたいというのが、米軍から見た米軍再編でした。日本政府は在日米軍の抑止力は維持する一方で、米軍再編の流れに乗って、基地負担の重い地域の負担を軽くしようと考えました。合意した計画通りに行けば、沖縄からは海兵隊員8000人がグアムに移り、普天間飛行場を含め計1500ヘクタールの基地が返還されます。
◇自衛隊と一体化
Q 日米間の米軍再編協議では、どういう合意があったの?
A 両国政府が協議開始に合意したのは02年12月。ただ、米国は戦略的な協議をしたかったのに日本では最初から基地問題が焦点になってしまったので04年10月、当時のアーミテージ国務副長官が議論を仕切り直しました。その結果、まず日米同盟が何を目指すかという共通戦略目標(05年2月)で合意し、自衛隊、米軍がそれぞれどういう役割を担うかという中間報告(05年10月)、基地再編や兵力構成を具体化した最終報告(06年5月)という3段階で合意しました。3文書はセットで、具体的な再編は14年中に終了することになっています。
Q その結果、自衛隊はどうなるの?
A 米軍との一体化が進むことになります。米陸軍の第1軍団司令部がキャンプ座間(神奈川県)に前方司令部を置き、陸上自衛隊との連携が強まります。沖縄県のキャンプ・ハンセンで陸自が訓練することにもなりました。航空自衛隊の航空総隊司令部(東京都府中市)は同じ東京都内の米軍横田基地内に移転します。そこに、有事の際、ハワイの作戦司令部との連絡窓口になる「共同統合運用調整所」が置かれ、防空情報の日米共有化が進みます。
海上自衛隊と米海軍はもともと密接な関係にあり、運用という意味では大きな変更はありません。
◇地位協定の「壁」
Q 占領軍だった米軍が日本に駐留し続けているのはどうして?
A 憲法上の制約から日本は自衛のための必要最小限の防衛力しか持てません。有事の際には、自衛隊は防衛に徹する「盾」となり、「矛」となる攻撃力は米軍に頼るというのが基本方針です。日米安全保障条約には米軍が日本を守る義務が規定されています。ただ、米軍は日本防衛のためだけにいるわけではありません。日本の米軍基地はベトナム戦争やイラク戦争などで戦力や物資を送り込む後方拠点として機能してきました。
Q 時々、問題になる地位協定って何なの?
A 安保条約に基づき日本に滞在する米兵やその家族の法的権利などを定めたものです。
Q 地位協定の改定を求める声が高まっているの?
A 米兵による事件が発生する度に改定の声が上がります。当初は事件を起こした米兵が起訴前に日本側に引き渡されることはありませんでした。95年の沖縄県の少女暴行事件をきっかけに、重大な犯罪については起訴前でも引き渡すよう運用の改善がなされました。ただ政府は、地位協定=<2>=自体の改定は非現実的と考えています。
Q 米軍再編という大きな節目に日米安保を根底から見直そうという議論はなかったの?
A 大野功統防衛庁長官(当時)は05年、米軍横田基地について自衛隊も使用することから「管理権を日本に戻すべきだ」と主張しました。現在の防衛相の石破茂氏も当時「すべての米軍基地の管理権を日本側にいったん戻し、米軍の基地使用を認める形にすべきだ」と提案しました。ただ、米側が難色を示したうえ各地でさまざまな基地問題が取り上げられたことから、議論はうやむやになりました。
◇日本負担3兆円?
Q ところで米軍再編っていくらかかるの?
A 分かりません。米政府の関係者から「総額3兆円」という数字が出たことがあります。国民1人当たり2万円以上の計算ですが、積算根拠もはっきりしません。普天間飛行場の代替施設は数千億円規模と言われていますが、工法さえまだ決まっていません。はっきりしているのは総額60・9億ドル(約6300億円)という海兵隊のグアム移転経費の日本側負担だけ。日本は司令部庁舎建設など28億ドルを直接負担し、住宅やインフラ整備のために32・9億ドルを融資・出資します。
◇思いやり予算
Q なぜグアムの建設を日本が負担するの?
A 沖縄の海兵隊司令部が8000人の隊員とともにグアムに移転することになったのは、日本側の要求だったからです。米軍はグアムを西太平洋の戦略拠点にするため基地機能を強化する方針を既に決めていました。中国ににらみを利かせるためです。
Q 他にも米軍にはお金を出しているんでしょ。
A 08年度予算に計上された在日米軍の駐留経費や再編事業に関する経費は総額4193億円。もともと周辺対策費(547億円)や施設の借料(910億円)などは日本側が負担することになっていました。78年に当時の金丸信防衛庁長官が「思いやりの立場で」として、日本人基地従業員の給与なども日本側が負担することにしました。このため「思いやり予算」と呼ばれています。今年度から3年間の新しい特別協定については、民主党が反対し1カ月ほど空白になりました。日米両政府は、米軍駐留経費について、今後さらに協議を続けることになっています。
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◇同盟の覚悟を米は注視--拓殖大教授・森本敏氏
米国は世界規模で米軍の兵力の再構築、再編成を行い、アジアでは日本と韓国が舞台となった。アジアにおける米軍再編の最大の狙いは対中国戦略と言っていい。米国は二度とアジアで米国人の血を流してはいけないと考え、中国と協調関係を維持することが大事だと思っている。
ただ、中国軍の太平洋進出の動きは話が別だ。米国はアジア太平洋の海洋権益を非常に重視しており、「中国が出てくるなら戦う」決意を持っている。
中国の海空軍に対し、米軍は最も効率的に対応できる戦略的体制を考えた結果、グアムを戦略基地にして、必要な機能を移すことになった。西太平洋を従来より重視し、横須賀には原子力空母を配備する。日本の米軍基地も、米国の戦略に合致するよう改めるのが在日米軍再編だ。
沖縄・普天間飛行場の代替施設への移設がうまくいかない場合、米軍再編の構造そのものを大きく後退させる。それ以上に、米国は同盟国としての日本の覚悟、決意、実行力に疑いを持つだろう。米国は、日米安保条約があるから日本を守るというふうには考えていない。同盟国が同盟維持のためにどれだけの覚悟を持っているか、貢献をするかなどを見極め、同盟の質を変えていこうと考えている。「やる気がないならいいですよ」ということだ。条約に書いてあることだけを頼りにしていると、国は危機に陥る。日ソ不可侵条約はその最たるものだ。
安保条約とか地位協定に関する日米の考え方は相当ずれている。米国はグローバルな観点から同盟をとらえているが、日本は法的、技術的な面で対応し、日本の世論に配慮する視点でモノを考えている。日本は核保有もできず、巨大な軍事力を持つこともできない。周辺国では軍拡が進む。この国をあと50年、100年、どうやったら守っていけるのかという基本的な国家戦略のあり方を議論する時期が、とっくに来ているはずだ。だが、政党は党利党略を優先させ、なかなか戦略的な議論をしてくれない。
米国にとっては、日米同盟はアジア太平洋戦略の一環。突き詰めれば、太平洋における海洋権益を共有できる国と一緒になりさえすれば、別に日本でなくてもよい。豪州、ニュージーランド、シンガポールなど価値観を共有できる国との多国間の同盟も検討されるかもしれない。【構成・古本陽荘】
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「読む政治 選択の手引」は毎月1回掲載します。
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■ことば
<1>在日米軍基地
在日米軍が使用する基地には(1)米軍が管理する施設(2)米軍が管理し、自衛隊も共同で使用する施設(3)日本が管理し、米軍が共同使用する施設--の3種類があり、一般的には(1)と(2)が米軍基地とされている。防衛省によると昨年3月現在、在日米軍基地は13都道県に計85施設あり、総面積は約308平方キロ。沖縄県が33施設、約229平方キロと圧倒的に多く、全体の約74%を占める。県別の面積で次に広いのは三沢基地を抱える青森県の24平方キロ(4施設)や、キャンプ座間がある神奈川県18平方キロ(14施設)。空港や訓練場のほか、通信施設だけの基地もある。
<2>日米地位協定
「米軍は日本の施設を使用することができる」とした日米安全保障条約6条に基づき結ばれた協定。米兵や家族の裁判権や租税について規定している。1960年1月に署名され、同年6月に国会承認、発効した。以来、一度も改定されたことはない。犯罪人の引き渡しについては、身柄が米国側にある場合、起訴するまで日本側に渡さないことになっている。95年の沖縄県の少女暴行事件を契機に重大な犯罪については起訴前の引き渡しに応じることになったが、これは協定の改定ではなく日米合同委員会の合意事項として運用の改善を図ったもの。米兵と家族の持っている米国の自動車運転免許証はそのまま日本で使えることなども記されている。
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■人物略歴
◇もりもと・さとし
防衛大卒。航空自衛隊、外務省などを経て00年から拓殖大に勤務。著書に「米軍再編と在日米軍」など。67歳。
毎日新聞 2008年5月26日 東京朝刊