2008年8月20日水曜日

判決を支持!「大野病院医療事件」に無罪判決

今回、大野病院で治療の甲斐なく亡くなられた患者さんのご冥福を心からお祈りいたします。
また、ご遺族の皆様の心の平穏が一日でも早く訪れますよう願っています。


今回の「大野病院医療事件」の最大の問題点は「正当な医療行為による結果、残念ながら死亡した」にもかかわらず警察が動き医療事故扱いし、起訴した事にあると思います。判決からもわかるように、このようなケースでは警察の介入は必要ありませんでした。

私はその意味で今回の無罪判決を当然と思い、支持します。

この「事件」によって日本中の医師は「普段通り仕事をしていても、いつ自分が犯罪者扱いされ、起訴されるかるかわからない」という不安を抱いたと思います。そしてこの事件以降、実際にお産を取りやめる医師、医療機関が相次いだ事も確かです。

私自身も外科をしているので、決して人事とは思えませんでした。だからといって仕事を辞めようとか嫌だとは思いませんでしたが、あまり無理はしないでおこうという気にはさせられました。全体としてみれば、医師としてのモチベーションは下がったでしょうね。

もともと「医療」というのは不確実なもので、「絶対」という事がありません。自信たっぷりにおっしゃる方もいるかもしれませんが、実際のところは「おおむねこういう診断」で、治療すれば「このくらいの結果」が期待されるといった程度だと思います。私たち医師は当然ながら診療には全力であたりますが、診断も治療結果も常に100%ではないのです。そのことを十分に納得して頂く事が必要だと思います。

そのためにもいわゆる説明と同意(インフォームドコンセント)が決定的に重要ですが、診断や治療方法、期待される結果、起こりうる合併症などの説明に1時間や2時間かけたところで全くの知識のないかただと本当に理解し納得できるかというと難しいのではないでしょうか。

たとえば、2時間近く手術を含めた治療の説明をしても最後には「よくわからないのでお任せします」と言われる事も少なくありません。
では、4〜5時間ならといわれてもこちらにそれだけの時間がありません。(ときには複数回にわけてそのくらいの時間を費やす事はありますが)
ですので、それを補う意味で説明・同意書という形で文書として取り交わすという事を行っているのが現実です。


まして、緊急の治療などでは詳しい説明は事後になる事も十分にありうる状況です。それでも、結果に100%を求められたら医師はやっていけません。

事故絡みだけではないですが、医師が「これではやっていけない」と感じたらどうなるか。
この数年間を振り返ってみれば、多くの医師はその場から立ち去ります。そうして地域の医療が崩壊していきます。診療科が閉鎖され、病医院が無くなります。

それは、結局は地域住民の医療を受ける権利を奪う事にも繋がります。

ではどうすればいいのか。

医師を一方的にたたくのでなく、何故そうなったのか、そうならないためにどうしたらいいのかを今議論中の「第三者機関」の調査をもとに医師を始めとする職員はもちろん患者、家族が参加して考え改善していく事とが必要ではないでしょうか。
そうしてその結果と教訓を情報共有して普遍化するという事も必要です。

犯人探し、罰則主義では医療は良くならず全く逆効果です。

くどいようですが、「診療行為にかかわる、起こりうる合併症と考えられるもの」に関してはたとえそれが患者死亡という最悪の結果となったとしても刑事事件としての扱いはしてほしくないし、してはならないと思います。

その点で、警察による過剰介入を招いている医師法21条について、判決では
{医師法21条については「診療中の患者が、その病気によって死亡したような場合は、届け出の要件を欠き、今回は該当しない」と指摘した。}
ことも評価したいと思います。




<大野病院医療事件>帝王切開の医師に無罪判決 福島地裁
           毎日JP

 福島県大熊町の県立大野病院で04年、帝王切開手術中に患者の女性(当時29歳)が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医(休職中)、加藤克彦被告(40)に対し、福島地裁は20日、無罪(求刑・禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。鈴木信行裁判長は、最大の争点だった胎盤剥離(はくり)を途中で中止し子宮摘出手術などへ移行すべきだったかについて「標準的な医療水準に照らせば、剥離を中止する義務はなかった」と加藤医師の判断の正当性を認め、検察側の主張を退けた。

 加藤医師は04年12月17日、帝王切開手術中、はがせば大量出血する恐れのある「癒着胎盤」と認識しながら子宮摘出手術などに移行せず、クーパー(手術用はさみ)で胎盤をはがして女性を失血死させ、医師法が規定する24時間以内の警察署への異状死体の届け出をしなかったとして起訴された。

 争点の胎盤剥離について、判決は大量出血の予見可能性は認めたものの、「剥離を中止して子宮摘出手術などに移行することが、当時の医学的水準とは認められない」と判断した。医師法21条については「診療中の患者が、その病気によって死亡したような場合は、届け出の要件を欠き、今回は該当しない」と指摘した。

 医療行為を巡り医師が逮捕、起訴された異例の事件で、日本医学会や日本産科婦人科学会など全国の医療団体が「結果責任だけで犯罪行為とし、医療に介入している」と抗議声明を出すなど、論議を呼んだ。公判では、検察、被告側双方の鑑定医や手術に立ち会った同病院の医師、看護師ら計11人が証言に立っていた。【松本惇】

 【ことば】癒着胎盤 一般に分娩(ぶんべん)後、胎盤は自然に子宮壁からはがれるが、胎盤の絨毛(じゅうもう)が子宮筋層に入り、胎盤の一部または全部が子宮壁に癒着して胎盤がはがれにくくなる疾患。発生率は数千~1万例に1例と極めて低い。

 ◇県警刑事総務課長「捜査を尽くした」

 福島県警刑事総務課の佐々木賢課長は「県警としては捜査を尽くしたが、コメントは差し控えたい。細かい争点については(裁判所の判断が)まだ分からないので何とも言えない。県警は医師に注意義務があるとして検察へ送ったが裁判所はそう認定しなかった」と話した。

 ◇産科婦人科学会理事長「救命医療の確立目指す」

 吉村泰典・日本産科婦人科学会理事長は「被告が行った医療の水準は高く、医療過誤と言うべきものではない。癒着胎盤は極めてまれな疾患であり、最善の治療に関する学術的な議論は現在も続いている段階だ。学会は、今回のような重篤な症例も救命できる医療の確立を目指し、今後も診療体制の整備を進める。医療現場の混乱を一日も早く収束するため、検察が控訴しないことを強く要請する」との声明を出した。

0 件のコメント: